『エル・チャポ』シーズン1ネタバレ感想:野望を胸にのし上り、最初に収監されるまで
Netflixドラマ『エル・チャポ』シーズン1全9話を視聴しました。『ナルコス』が完結してしまい、あちらではチャポのお話をやらなかったので、気になってこちらを視聴しました。ちょうど、『ナルコス メキシコ編』が3シーズンかけて描いたあたりの出来事が『エル・チャポ』のシーズン1に詰まっていたような感じでしたね。特にシーズン2&3あたりの時代と被ってるのかな。
私は先に『ナルコス』を履修しておいて良かったと強く思いました。履修してなかったら、誰が誰やら、たぶんついていけなかったです。『ナルコス』も当然登場人物が多いんですが、ナレーションがあるし、知識なくても結構わかりやすい作りになってたんだなぁって思いました。
当記事では『ナルコス』についてもかなり言及しているので、『ナルコス』のネタバレを知りたくない方はご注意ください。
『ナルコス』のオープニングがかなり好きだったのですけど、『エル・チャポ』のオープニングもなかなか良いですね。どちらも実際の映像や写真なんかをコラージュしてる感じで、音楽も素敵です。
あらすじ
1985年のメキシコ。DEA捜査官とそのパイロットを殺害した容疑で、グアダラハラ・カルテル幹部のラファエロ・カロ・キンテロとエルネスト・フォンセカ・カリージョが逮捕された。グアダラハラ・カルテルのボスであるミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルドの下で働くエル・チャポことホアキン・グスマン・ロエラは、メキシコとアメリカの国境を跨ぐ地下トンネルを掘り進め、コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルのコカインを運ばせて欲しいとミゲル・アンヘルに頼んだが、「お前にはまだ早い」と却下されてしまう。そこで、チャポは独断でエスコバルに会いに行くことにする。
予告動画
登場人物&キャスト
実在の人物をモデルにした架空の人物が多く出てきます。実名そのままの人と、名前を少し変更した架空の人物が入り混じってる意図は何なんでしょう??
ホアキン・グスマン・ロエラ
通称エル・チャポ。ミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルド率いるグアダラハラ・カルテルで働く麻薬密売人。グアダラハラ・カルテル解体後はテカテ市を任されることになります。非常に野心家で、雑草魂が凄い。”チャポ”とは”ちび”という意味です。演じているのはマルコ・デ・ラ・O。
コンラド・ソル
制度的労働党(PTI)で働く政府側の役人。チャポ同様非常に野心家で、大統領の座を目指しており、成り上がるためには手段も選びません。制度的労働党というのは、実際のメキシコの政党である制度的革命党(PRI)を模してるんでしょうかね。メキシコの元公安相だったヘナロ・ガルシア・ルナがモデルのようです。演じているのはハンブルト・ブスト。
アマド・カリージョ・フエンテス
”天空の王”の異名を持つフアレス・カルテルのボス。ミゲル・アンヘルの右腕でしたが、グアダラハラ・カルテル解体後は、カルテル間でもめ事を起こさせないようお目付け役を政府から言い渡され、ミゲル・アンヘルの後任となります。演じているのはロドリゴ・アベド。
エリベルト・パルマ
通称”エル・グエロ”。チャポの仲間で、グアダラハラ・カルテル解体後はサン・ルイス・リオ・コロラド市を任されます。モデルとなった人物はヘクトル・ルイス・パルマ・サラザールです。演じているのはフアン・カルロス・オリヴァス。
ラモン・アベンダーニョ
グアダラハラ・カルテル解体後にティフアナを任されたアベンダーニョ兄弟の三男。カッとなりやすく暴力的で残忍な男です。チャポとは犬猿の仲。モデルとなったのはもちろんラモン・アレジャノ・フェリクス。演じているのはロルフ・ピーターソン。
ベンハミン・アベンダーニョ
アベンダーニョ兄弟の次男で、ティフアナのボス。ラモンよりは冷静です。モデルはベンハミン・アレジャノ・フェリクス。演じているのはカルロス・エルナン・ロモ。
イスマエル
シナロアのボス。衝突するチャポ&グエロとアベンダーニョ兄弟の仲裁をしようとしています。モデルはイスマエル・サンバダ・ガルシア(通称”エル・マヨ”)。演じているのはディエゴ・バスケス。
ブランコ将軍
国家安全保障担当補佐官。ソルの上司です。権力欲にまみれた腐敗した男です。演じているのはルイス・ラバゴ。
ネタバレ感想
『ナルコス』との相違点が気になってしまう
キャストやキャラの違いを受け入れる必要があった
違ってて当然だろということをいきなり言ってしまいますが、やっぱり『ナルコス』のキャストやキャラに思い入れがあるため、全く違うことへの寂しさのようなものを感じてしまいました。だから、『エル・チャポ』のキャストやキャラに慣れるのに、少し時間がかかっちゃいましたね。
『エル・チャポ』の渋めでギラついてるチャポも良いんですけど、『ナルコス』の陽気でちょっと素朴且つ間抜けな感じのチャポが恋しくなりました。『ナルコス』のチャポ…というかシナロア組は、ややギャグ担当(ってほどの軽さはありませんが)っぽさがあって、クスッと笑えるようなノリの明るい雰囲気があったんですよね。それに、『ナルコス』のチャポは「ボスになりたい」という野望はガンガンに出しておらず、見ているこっちとしては、何か知らないうちにしれっと幹部になってるぞぐらいの認識しかできなかったんですよ。だから、『エル・チャポ』のチャポを見て、こんなにも野心家でド根性精神の持ち主だったのかとビックリしました。どっちが実際の本人に近いかは知りませんが。
でも、チャポの違和感はまだ少ない方でした。ミゲル・アンヘルやアマドに対する違和感はチャポの比ではなかったし、未だ悶々としているのはラモンです。ごめんなさい、俳優さんの演技はラモンというキャラにすごくハマってると思うんですが、ラモン役にしてはお年を召すぎていませんか!?兄のベンハミンよりも年上に見える…!『ナルコス』のラモンが20代くらいのチャラ男だったので、落差が凄くて!ラモン初登場が2話で、この時1988年の設定です。私はwikiで実際のラモンが1988年に何歳だったのか調べましたよ。24歳です。やっぱ老け…大人っぽすぎでは。あ、でも、アベンダーニョですから、違うんですもんね。ドラマでは中年設定なのでしょう。あの年齢で暴力全振りではっちゃけてるの、ヤバみが増してます。
ラモンが老けた代わりにグエロが爽やかに若返りました。実際の1988年のグエロは48歳です。『エル・チャポ』のグエロは30前後に見えますね。ま、こちらもフィクショナライズされてますから。逆に、『ナルコス』は史実に合わせた年齢に見えますね。
『ナルコス』ですとチャポはグエロより立場が下でしたが、『エル・チャポ』では同等かチャポの方がちょっと上に見えますね。上下関係というより、親友っぽい感じがありますが。
イスマエルもだいぶキャラ設定が異なってました。『ナルコス』だとイスマエルとチャポは友人ぽかったですけど、『エル・チャポ』ではイスマエルの方が立場が上でしたし、ミゲル・アンヘル収監後にシナロア州を任されてました。でも、史実だとチャポの後継がイスマエルっぽいですね?ドラマではチャポはテカテ市のボスに任命されてましたが、まだシナロアのボスじゃないってことなんですか?グエロも他の市の担当になってましたし。ここらへん、史実通りなのか創作なのかよくわからなかったです。とりあえず、イスマエルは『ナルコス』の方が圧倒的に好みだしキャラが立ってたように思いました。
話が脱線しますが、『ナルコス』のグエロを見た時、鼻の下に鼻血みたいな赤い傷があるなって思ってたんですけど、『エル・チャポ』のグエロも鼻の下に赤っぽい傷が見えて、気になってご本人の画像検索したらそれらしいものが本当にあるんですね。傷かなぁ?痣?
グエロの妻子殺害事件
『エル・チャポ』でも『ナルコス』でも、グエロの妻が不倫した挙句その不倫相手の男に惨殺され、幼い二人の子供も橋から投げ捨てられる事件が描かれてました。『エル・チャポ』だと不倫男にグエロの妻子殺害を命令したのはラモンでしたが、『ナルコス』ではミゲル・アンヘルでした。どちらが真相か私はわからないのですけど、wikiにはミゲル・アンヘルの命令で殺されたと書いてありました。ただ、この事件が起きたのはミゲル・アンヘル逮捕後ですので、『ナルコス』も史実に忠実というわけではありません。
この不倫男、クラベルという名前なんですけども、妻子を殺害した直後からティフアナ・カルテルで働き始めたらしいので、ラモンが手引きしていたというのは全くの創作ではないのかもしれませんね。ちなみに、チャポとグエロがミゲル・アンヘルの弁護士の家に押し入って殺害するシーンがありましたが、実際は妻子を殺害されたグエロがミゲル・アンヘルへの報復で彼の弁護士を殺害したようです。
橋から幼子を投げ捨てるシーンでは、捨てられる直前の車中で眠る子供たちの映像が流れたんですけど、あれは実際の映像ですか…?本物風に加工しただけですか?めちゃくちゃ怖かったんですけど。クラベルは本当に映像を録ってたらしいし、妻の首をグエロに送ってるんですよね。怖すぎる。
枢機卿殺害事件
ラモンに仲間のラヨやグエロの妻子を殺害されたチャポとグエロはアベンダーニョ兄弟に報復を重ね、対立がどんどん激化していきました。そんな中で起きたのが、グアダラハラ国際空港のポサダス・オカンポ枢機卿殺害事件です。
1993年5月24日、この日チャポが空港に現れる情報を得ていたラモンは、サンディエゴを拠点とするローガン・ハイツというギャングを引き連れてチャポを襲撃し、空港の駐車場に居合わせたオカンポ枢機卿が銃撃され死亡してしまいました。
これは『ナルコス』でも描かれていた事件で、枢機卿はチャポの乗る車と同じ車に乗っていたため、チャポと間違えられて銃撃されて死んでしまったと描かれていました。一方、『エル・チャポ』ではもっと複雑に陰謀が絡み合っていました。
オカンポ枢機卿は麻薬密売人や汚職にまみれた政府を強く非難しており、そのことで政府から疎まれていました。枢機卿が邪魔だったブランコ将軍とソルはアマドに画策させ、ラモンがチャポを襲撃するどさくさに紛れてオカンポ枢機卿も殺害するという計画を立てたのです。本当はラモンにチャポを殺害させ、枢機卿殺害の罪もラモンに被せる予定でした。しかし、チャポは銃撃を逃げ切り、チャポがいる方とは全然違う車への銃撃を目撃したラモンは不審に思い、その場から逃走してしまいます。こうしてアマドの計画は失敗してしまうのですが、政府はカルテル同士の抗争に巻き込まれて枢機卿は死亡したと発表し、枢機卿殺害犯としてチャポを指名手配したのです。
史実として、メキシコ政府の調査では枢機卿はチャポと間違えられてカルテル間の銃撃に巻き込まれて死亡したと結論付けたようです。ただ、政府側が殺害を指示したという疑惑は実際にあり、未だに謎がある事件っぽいです。枢機卿は至近距離で何発も撃たれていたので、チャポと間違えられたという説明はちょっと疑問に思えますよね。裏でアマドが関係していたというのはドラマの脚色かなと思うのですが、『ナルコス』でもアマドは裏で手を回していることが多かったですし、ライバルたちを争わせる立ち回りを実際にしていたのかな~なんて感じました。『エル・チャポ』では結構バチバチに対立してましたね、チャポとアマド。
童顔男たちのみなぎる野心がスゴイ
チャポは貧困家庭の生まれで、ロクデナシの父親から虐待を受けていました。チャポが得たお金は父親に取られ、反抗すれば殴られて、「お前なんて密売人の犬にしかなれない」などと馬鹿にされます。そこからチャポは「ボスになってやる」と家を出て、認められようと成り上がっていくわけです。
チャポが時々夢に見る、伸びる赤い花々の中の白い高級車のイメージは、彼の野望や権力欲の象徴みたいなものなんですかね?あの花は、ケシの花でしょうか。チャポはカルテルに入る前はマリファナやケシの栽培を行っていたし、あの白い車は彼が最初に入った組織のボスの車ですよね。少年チャポはあの車にとても惹かれていて、自分もこんな車に乗りたい・力を手に入れたいっていう憧れを持ったように見えました。
枢機卿殺害容疑を掛けられて指名手配されたチャポは逃げ回ったものの逮捕・収監されてしまうのですが、刑務所でのチャポの不屈の精神は凄かったです。何ヶ月も隔離独房に入れられて、サイレンを爆音で聞かされ続けて、それでも反抗的だから拘束衣をつけられて、普通ならとっくに精神がおかしくなってるだろうに、まだこの状況から脱してやろうとする意思を折れずに持っていられるのは、並大抵の精神力じゃないですよね。すごい悪い奴なのに、看守側の方が嫌な人間に見えてきちゃいました。『ナルコス』だと、ドン・ネトと同じ刑務所で不便なく過ごしてたので、これまた落差が凄かったです。
フォーブス誌はチャポを「史上最大の麻薬王」と、アメリカ政府は「地球上で最も残酷で危険で恐ろしい男」と、DEAは「パブロ・エスコバルに匹敵する」と評しているそうです。めちゃくちゃ危険な人物なわけで、『エル・チャポ』のチャポはそれも納得な程非常に野心家で大胆な男に描かれていました。くりくりおめめの童顔に似合わずすごく凶悪なんですねぇ。
もう一人、政府側の主人公とも呼べるコンラド・ソルというキャラがいるのですが、彼も大統領になるという大きな野望に向かって突き進んでいます。最初、ソルはチャポと対峙する正義のキャラかな?と思ったのですが、全くそんなことありませんでした。
ソルは上司であるブランコ将軍が過去に起こして闇に葬ったレイプ事件を、女性ジャーナリストと共に掘り起こして記事を書かせるのですが、なんとせっかく情報を集めて書かせたその記事を、世に出る前に大統領に流してしまうのです。そうすることで大統領に記事を潰させ、ブランコ将軍も左遷させたのです。結局記事は世に出ず、事実を暴いたジャーナリストはブランコ将軍に殺されてしまいます。ソルは自分が昇進するためにジャーナリストのことも利用したのです。ブランコ将軍の不祥事が世間にバレるとサリナス大統領も立場が危うくなっちゃうわけで、自分の出世のためにはまだサリナス大統領が必要だったってことですかね。
最終的にソルはブランコ将軍のことも殺してしまいますし、自分の野望のためには手を汚すことも厭わない、思ったよりずっとダーティなキャラでした。収監されるチャポがソルに「お前らが刑務所に入れよ」って言うんですが、そう言いたくなる気持ちはめっちゃわかります。
今後、チャポとソルはどんな関係になっていくんでしょうね。ソルはチャポから政敵の情報をもらうことで他の刑務所への移送を約束していましたが、あっさり手を組む流れにはならなそう。互いに一筋縄じゃいかない相手ですから、今後が楽しみです。ソルもチャポに負けず劣らずの童顔で、これは二人の童顔男の物語だなって思いました。
最後に
私はナイトクラブ襲撃とか空港襲撃とかドンパチやってるところが好きみたいで、シーズン前半が一番楽しかったです。中盤の指名手配されて逃げてるところはちょっと面白味に欠けました。さっさと捕まって7~8話でまとめてくれてもよかった。
あと、私はある程度のグロは耐えれるんでもっと激しい暴力描写があっても大丈夫なんですが、虫のドアップだけは本当にやめてください、お願いします。