映画『犬王』ネタバレ感想:実在した能楽師を描くロックなミュージカルアニメ
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映画『犬王』を視聴しました。私はこの映画を見るまで犬王という能楽師が実在したことを知らなかったので、創作キャラかと思っていました。最初に映画のタイトルを見かけた時も『いぬおう』ではなく『けんおう』だと思ったレベルです。原作は古川日出夫の「平家物語 犬王の巻」。監督は『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』の湯浅政明、キャラクター原案は『ピンポン』の松本大洋、脚本は『アンナチュラル』『MIU404』の野木亜紀子、音楽は『あまちゃん』の大友良英が手掛けており、犬王役は女王蜂のアヴちゃん、友魚役は森山未來が務めるなど、錚々たるメンバーが名を連ねています。
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本ページの情報は2023年4月時点のものです。現在は配信終了している場合もありますので、最新の配信状況は各動画配信サービスの公式サイトにてご確認ください。
あらすじ
三代将軍足利義満が南朝との統一を目指している南北朝時代。京の都、猿楽の一座である比叡座で、異形の赤子が生まれ落ちた。その異形ゆえに父親にも周囲にも疎まれ、瓢箪の面を被って育つ。名も与えられなかった彼は芸の練習にも参加させてもらえなかったが、見様見真似で能を学び、舞を独創した。そして自らを犬王と名乗った。一方、壇ノ浦の漁師の息子・友魚は、京の侍の依頼で父と共に壇ノ浦に沈んだ神器・天叢雲剣を発掘する。しかし、神器をあらわにした天罰により父が死亡、友魚は失明してしまうのだった。
作品情報&予告動画
監督 | 湯浅政明 |
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キャラクター原案 | 松本大洋 |
脚本 | 野木亜紀子 |
原作 | 古川日出男『平家物語 犬王の巻』 |
音楽 | 大友良英 |
制作会社 | サイエンスSARU |
出演者 | アヴちゃん(女王蜂) 森山未來 柄本佑 津田健次郎 松重豊 |
登場人物&キャスト
犬王
比叡座の棟梁の息子として生まれたが、その異形ゆえ虐げられ秘匿された存在。見様見真似で能を学び、独特な舞と歌唱を身につけました。壮絶な人生にも関わらず明るくポジティブです。声優を務めているのはアヴちゃん(女王蜂)。
友魚
壇ノ浦の漁師の息子。天叢雲剣を引き抜いた天罰により父と視力を失い、都へ向かう途中で出会った琵琶法師・谷一に弟子入りします。盲目になってから、父親の霊や平家の霊が見えるようになりました。名前が友魚→友一→友有と変遷します。声優を務めているのは森山未來。
足利義満
南北朝統一を目論む室町幕府三代将軍。藤若を寵愛しています。声優を務めているのは柄本佑。
犬王の父
猿楽の一座・比叡座の棟梁。究極の美を追求するあまり呪いの面と取引をしました。声優を務めているのは津田健次郎。
友魚の父
壇ノ浦の漁師。壇ノ浦の戦いで海に沈んだ神器・天叢雲剣をサルベージし鞘を抜いたところ、天罰を受けて死亡しました。亡霊となり、友魚に恨みを晴らすようけしかけます。声優を務めているのは松重豊。
谷一
覚一座の琵琶法師。盲いた友魚と出会い、弟子にします。声優を務めているのは本多力。
藤若
足利義満の寵愛を受ける美少年の猿楽師。後の世阿弥です。声優を務めているのは吉成翔太郎。
ネタバレ感想
実在した犬王とは?
犬王は室町時代の大人気スター能楽師です。この時代、能楽は猿楽と呼ばれていました。歴史の授業で観阿弥(父)と世阿弥(子)が能を大成したと習いますが、犬王は同じ頃に活躍し、彼らにも多大な影響を与えた存在のようです。年齢的には観阿弥と世阿弥の間くらいらしいですね。猿楽にも色々流派のようなものがあり、観阿弥や世阿弥が大和猿楽と呼ばれる座に属していたのに対し、犬王は近江猿楽比叡座の役者でした。芸風や見せ方が異なっている感じですね。観阿弥の没後に足利義満の寵愛を受け、義満の法名「道義」から一字もらって「道阿弥」と名乗ることを許されるほど認められ、一世を風靡しました。
犬王は天女舞を得意としていて、世阿弥は彼の優美な芸風を絶賛していました。やがて近江猿楽は衰退していくのですが、世阿弥は犬王の天女舞を大和猿楽にも取り入れ、それが能楽と言う伝統文化として現代にも伝わってるわけです。ただ、犬王は書物として作品を残していないので、彼の名は歴史の授業で出てこないし彼の作品と言えるものもないのです。今現在伝わる能楽に世阿弥が取り入れた犬王のエッセンスはあるのでしょうけど、一般的には知られていない(ですよね…?)ので物悲しさを感じる存在ですね。
斬新な能楽ロックスター
能楽と聞くと、何となく厳かで敷居の高い舞台芸術のイメージがありませんか。私は友達に能を見るのが趣味と言われたら、なんて高尚な趣味だろうと思ってしまいます。それぐらい、自分には馴染みがなく縁のないものです。でもこのアニメはそんな能をもっと身近に感じさせワクワクさせてくれる体験を与えてくれました。
比叡座の棟梁の息子である犬王は異形の姿を持って生まれ落ち、父親からも忌み嫌われて名前すら与えてもらえませんでした。しかし彼はそんな生い立ちを嘆くこともなく明るくポジティブに育ち、いつか舞台に立って成功する夢を持っています。もう一人の主人公である友魚は天叢雲剣の天罰によって視力を失い、覚一座の谷一に弟子入りして平家物語を弾き語る琵琶法師になります。その時、亡霊となった父の反対を押し切って、長老の命により名を友一へと変えます。
目が見えない友一は異形の姿の犬王を恐れることはなく、2人は意気投合します。そして、恨みを残して成仏できない平家の霊の声を聴くことができる彼らは、まだ誰も知らない平家物語を奇想天外なスタイルの舞と歌で演じ、民衆を熱狂させていきました。犬王が平家の新たな物語を舞う度に犬王にかかった呪いが解け、彼の異形となった体の一部が通常の姿へと戻っていきます。飛ぶ鳥を落とす勢いとなった友一は友有と名を変え、覚一座から独立して友有座を立ち上げ、琵琶法師らしからぬ長髪と化粧を施すようになりました。彼らの評判は瞬く間に広がり、時の将軍足利義満の元にまで届くほどになるのです。
この作品が斬新だったのは、犬王と友魚のパフォーマンスが通常私達が思い浮かべる能楽のそれと全く違って、ロックバンドのようなパフォーマンスを魅せるところです。犬王はポップスターのような声音で歌い上げ、驚異的な身体能力でブレイクダンスやポップダンスみたいな舞を踊り、時にワイヤーアクションの如く飛び回り、友有は長い髪を振り乱して琵琶をギターのようにかき鳴らすのです。バンドメンバーはチェロみたいな琵琶を演奏してるし(あんなのあるんです?)、観客はロックフェスさながらに盛り上がってコールアンドレスポンスまであるし、ギラギラした照明にプロジェクションマッピングかと思うような時代先取りの舞台演出もあります。能楽をほぼ知らない私には逆にどこに能楽要素があるのかがわからなくなるぐらいにロックしてる。能楽には使われないでしょって楽器の音も聞こえてきますしね。こちらのテンションも上がって自然と体が揺れてくる、そんな現代的なパフォーマンスなのです。
静かに鑑賞するイメージの能楽とは真逆のものを見せられるわけですが、私にはロックやポップの方が馴染んでるし好んでるからとても楽しく見れました。そして、現代の能楽は静かに見るものかもしれませんが、この作品を見ていると当時の能楽はこうやって観客も一緒に歌い踊るものだったんじゃないかと思わせてくる力強さがありました。私達がアーティストやバンドやアイドルのライブで盛り上がってるように、室町時代の人達は能楽のスター達のライブで盛り上がってたのかもしれません。
俺たちはここにある
スターへの階段を瞬く間に駆け上がった2人ですが、南北朝統一を果たさんとする足利義満は異端である彼らの平曲を良く思いませんでした。義満は覚一座の長老がしたためる平家の本を正本として、それ以外の平曲を禁ずることを告げます。平家の魂を成仏させることで父から受けた呪いを解いた犬王は、己に従わなければ琵琶法師の首を河原に並べると脅す義満の命に従い、その後も能楽師として活躍しました。しかし、友有は最後まで命令に逆らい続けて両腕を斬り落とされ、本当の名である友魚を絶叫して斬首されました。それから600年後の現代、怨霊と化していた友魚の元に犬王の魂がやって来ます。名前を戻していたから見つけるのに600年もかかったと笑う犬王。2人は出会った頃の姿へと戻り、楽しく舞い歌いながら成仏していくのでした。
犬王の曲が現代に残っていないのは義満が禁じたからという流れでした。犬王と友有は自分達の存在を知らしめたかったわけですが、義満が禁じたことで友有は逆に存在を消されてしまい、犬王はオリジナリティを消されて曲も残せませんでした。アイデンティティとも言えるものを奪われて、2人にとってどれほど悔しいことだったでしょう。友有は怨霊となるほどの深い恨みを持っていたと考えられます。でも、600年間友有を探し続けた犬王はいつもと変わらない彼でした。彼は生まれた時から人の悪意に晒され続けて来たはずなのに、誰かを強烈に恨んだり憎んだりということがないです。すごく明るくて負の感情に飲まれない強さを持ってました。義満の元で能楽師として一世を風靡したことにもなってましたから、自分らしさを封じられても存在を示したのでしょう。それに、藤若(世阿弥)が感銘を受けている描写がありましたから、知れ渡っていなくても名は残っているはずです。
一方、消されてしまって友有は何も残せなかったように思えますが、友有の存在は犬王に深く刻まれているのです。600年も諦めず探し続けるほどに。友有というのは、より私達に近い存在のように感じました。そもそも歴史に名が残らない人が圧倒的多数ですからね。きっと、名が残るスターの心にも名もなき誰かの存在が深く刻まれてたわけで、私達はどちらかと言えばそんな存在に近いように思うのです。犬王が平家の霊についてこのように言っていました。彼らは呪っているわけじゃなくて、自分達の物語を知って欲しいだけなんだと。自分達がこの世にいたことを誰かに知って欲しいんだと。犬王が600年も忘れずにいて会いに来てくれたから、「ここにある」と見つけてくれたから、友有は救われたのでしょうね。
犬王には影響力があったにも関わらず名が知られていない悲哀がありますが、友有には名すら残らない数多の人生の悲哀を感じます。でもそれ以上に、たった一人でも誰かの心に残る喜びと600年に及ぶ友情が明るい気持ちにさせてくれました。
最後に
参考やオマージュしたアーティストはたくさんいるのでしょうけど、私はクイーンみを感じました。不満としては、字幕が欲しかったですね。配信サイトで字幕出るかな?と思ったけど、出ませんでした。歌って何言ってるかわかりにくい時がありますから。
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