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映画『Mank/マンク』ネタバレ感想:『市民ケーン』の知識がないと難解

『Mank/マンク』

Netflixオリジナル映画『Mank/マンク』を鑑賞しました。映画史に残る最高傑作『市民ケーン』が制作された経緯を描いた映画、という情報のみで視聴開始しましたが、登場人物の関係性を把握することが難しく、政治色も強くて40分程で挫折し、予備知識を入れてから視聴を再開しました。正直、この映画は『市民ケーン』に関する知識がない人にとっては難解だし面白くないと思います。ちなみに私は『市民ケーン』は未視聴で、予備知識を入れた時にあらすじを読んだだけです。恐らく随所にオマージュがあるので『市民ケーン』を履修してからの方が確実に楽しめるでしょう。

本作品は第93回アカデミー賞の作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞など最多10部門にノミネートされています。第78回ゴールデングローブ賞でも最多ノミネートされましたが無冠で終わってしまいましたのでアカデミー賞も難しいかもしれませんが、どうなるでしょうね。

あらすじ

1940年、奇才オーソン・ウェルズは苦境におかれた映画会社RKOに招かれ、24歳という若さで映画製作の全権と自由を与えられた。ウェルズから脚本の初稿を任されたハーマン・J・マンキウィッツは、用意された牧場で執筆を開始する。60日という短期間で初稿を書き上げなければならない。マンキウィッツが口頭で紡ぐシナリオを速記していたリタは、主人公のモデルが誰であるかに気づく。

作品情報&予告動画

原題Mank
監督デヴィッド・フィンチャー
脚本ジャック・フィンチャー
音楽トレント・レズナー
撮影エリック・メッサーシュミット
編集カーク・バクスター
出演者ゲイリー・オールドマン
アマンダ・サイフリッド
リリー・コリンズ
チャールズ・ダンス

登場人物・キャスト

ハーマン・J・マンキウィッツ

愛称マンク。『市民ケーン』の脚本家のひとりで、この映画は彼の伝記映画になります。おべっかが下手なので敵を作りやすいです。演じているのはゲイリー・オールドマン。

マリオン・デイヴィス

ハーストの愛人で女優。ハーストをパパと呼ぶので最初は父娘だと思っていたのですが、愛人でした(笑)。『市民ケーン』においてケーンの二番目の妻となるスーザン・アレキサンダーはマリオンがモデルだとされています。演じているのはアマンダ・サイフリッド。

ウィリアム・ランドルフ・ハースト

新聞王と呼ばれる大富豪。愛人マリオンを女優として売り出すために映画製作会社まで立ち上げています。『市民ケーン』のモデルはハーストだと言われています。演じているのはチャールズ・ダンス。

リタ・アレクサンダー

マンクの速記係。演じているのはリリー・コリンズ。

ルイス・B・メイヤー

映画プロデューサーで、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)の共同創始者の一人。ハリウッドの最高権力者で、ハーストと友人です。MGMは映画を良く見る方なら馴染み深い、ライオンのロゴマークの会社です。あのオープニングロゴの愛称はレオ・ザ・ライオン。演じているのはアーリス・ハワード。

アーヴィング・タルバーグ

天才映画プロデューサーでMGMの経営幹部。メイヤーとは蜜月関係です。演じているのはフェルディナンド・キングズレー。

ジョセフ・L・マンキウィッツ

マンクの弟で監督・プロデューサー・脚本家。代表作には『イヴの総て』や『クレオパトラ』があります。演じているのはトム・ペルフリー。

オーソン・ウェルズ

『市民ケーン』の監督・共同脚本・主演を務めた若き奇才。私にとっては『市民ケーン』同様、名前は聞いたことあるけど詳しくは知らない…という認識でした。演じているのはトム・バーク。

『Mank/マンク』鑑賞前に入れておきたい予備知識

ネタバレ感想の前に、私同様、『市民ケーン』についてよく知らないという方のために、最低限これは知っておいてからの方が理解しやすいよという情報をまとめておきたいと思います。

ちなみに私は事前知識として下記の記事を読みました。拙ブログでは不十分でしたら是非参考にして下さい。

『Mank/マンク』を観る前に知っておきたい7つのこと|シネマトゥデイ
現在Netflixで配信されている鬼才デヴィッド・フィンチャーの最新作『Mank/マンク』は、“史上最高の映画”と呼ばれることも多い古典的名作『市民ケーン』(1…

『市民ケーン』ってどういう映画?

名作として『市民ケーン』というタイトルを知ってる方は多いと思いますが、一体どういう映画なのでしょう。新聞王と呼ばれたチャールズ・フォスター・ケーンは、「ザナドゥ城」と呼ばれる大邸宅で、「バラのつぼみ」という謎の言葉を遺して死亡します。その不可解な言葉の意味を、ケーンに近い人物達を訪ねて紐解いていく、というのが大筋のようです。巨万の富を築いたケーンですが、選挙の失敗や後に妻となる愛人スーザンに入れ込みすぎたことによって周囲の人間が離れて行き、最期は大邸宅で孤独な死を迎えるのです。1941年に公開され、批評家から高く評価されて第14回アカデミー賞で9部門にノミネートされたものの、脚本賞の受賞のみとなっています。

『市民ケーン』が批評家や映画人にベストワン映画として評価されているのは、いくつか理由があります。wikiから引用します。

本作が高く評価される理由の1つとして、以下の斬新な演出が用いられたことが挙げられる。

  • 物語の時間的配列を再構築し、ケーンの関係者の証言を基に様々な視点からの回想を織り込み、主人公の生涯を浮かび上がらせるという構成
  • 俳優の舞台的な演技を生かすためにショットを極力少なくした長回し(ワンシーン・ワンショット)の多用
  • パンフォーカス (画面の前景から後景まで全てにピントを合わせ、奥行きの深い構図を作り出す撮影手法)の使用
  • マットペインティング、ミニチュア、オプチカル・プリンターなどによる特殊効果の多用
  • 極端なクローズアップ と広角レンズの使用
  • ローアングルの多用(穴の開いた床にカメラを構えて撮影された)

引用元:市民ケーン – Wikipedia

ひとつひとつ説明はしませんが、どれも現在の映画制作において当たり前に使われている技法です。要は、現在でも使われている撮影技法を当時先駆けて用いたことが画期的だったのです。だから批評家や映画人達からの評価が高いんですよね。『Mank/マンク』で編集者として登場するジョン・ハウスマンが、マンクの書きかけの脚本を読んだ感想として「時間軸もあちこち飛ぶ」と言うんですが、wikiの引用にある1番目の理由、”物語の時間的配列を再構築し”のことですね。彼のこの台詞だけで、『市民ケーン』のことを知らずとも時間軸が飛ぶ手法は当時一般的ではないんだなとわかります。そして、『Mank/マンク』も同様に時間軸が飛ぶので、『市民ケーン』のオマージュが多用されてるんだろうなと思うわけです。

ケーンのモデルとなったウィリアム・ランドルフ・ハースト

ケーンには実在のモデルがいます。それが、当時アメリカで新聞王と呼ばれたウィリアム・ランドルフ・ハーストです。『Mank/マンク』ではチャールズ・ダンスが演じています。ゲースロのタイウィン・ラニスター役といい、強権を振るう権力者っぷりが似合います。ハーストは、新聞というメディアを扱っているにも関わらず、発行部数を伸ばすために事実の報道よりも市民感情を扇動することを売りにした手法を用いたことで有名です。これはイエロー・ジャーナリズムと呼ばれています。捏造や嘘の記事で世論をコントロールしたのです。

巨万の富を築いたハーストは動物園付きの大豪邸を建て、妻と別居して女優のマリオン・デイビスと暮らし始めます。『Mank/マンク』では『マンマ・ミーア』や『レ・ミゼラブル』のアマンダ・サイフリッドがマリオンを演じています。ハーストはマリオンのために映画製作会社を設立し、自社の新聞も使って全力で彼女を宣伝して売り出します。しかし、マリオンにはあまり女優としての才能がなく、権力者による露骨な愛人推しは大衆にもバレバレで白い目で見られていたようです。ここらへんのエピソードは『市民ケーン』でも描かれているみたいですね。

『市民ケーン』は自分とマリオンがモデルにされ揶揄されていると考えたハーストは激怒します。ケーンとハーストにあまりに共通点が多いので、モデルが誰なのかは一目瞭然だったのでしょう。ハーストは権力を使って、上映妨害を行いました。なんせ新聞王ですし、ハリウッドの権力者ルイス・B・メイヤーとの繋がりも強いです。それが功を奏したのか、アカデミー賞9部門にノミネートされながらも脚本賞の受賞のみとなったのでしょう。とは言え、権力で圧力をかけたにも関わらず、完全に潰すことはできなかったという印象も受けますね。

ネタバレ感想

ここからはネタバレ感想です。

マンクが『市民ケーン』を書いた理由

さて、この映画は事実に基づいていますが、完全なノンフィクションというわけではないようです。正直私には、どこまでがフィクションでどこまでが事実なのか明確にわからないのですが、この映画が提示した「マンクが市民ケーンを書いた理由」は、ハーストのやり方を批判したかったからなんだなと感じました。マンクはハーストに気に入られており、交流がありました。近くでハーストを見ていたマンクが彼を批判するシナリオを書く動機となったのが、1934年のカリフォルニア州知事選です。

映画を見る限り、マンクは社会主義を支持しています。ガチガチの社会主義者ではなさそうですが、労働者の給料は半分もカットしておきながら自分は痛みを負わないメイヤーのような経営者層・支配者層に思うところがあったのでしょう。大恐慌の時代ですから、労働者層の貧困が深刻になっている時でもあります。知事選には、共和党からフランク・メリアムが、民主党からは富の再分配を訴える社会主義者のアプトン・シンクレアが立候補していました。ちなみに、アプトン・シンクレアはアメリカの小説家で、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(原題:There Will Be Blood)』の原作小説『石油!』の著者です。富の再分配などに賛同するはずがないハーストやメイヤーはフランク・メリアムを支持していて、マンクはシンクレアを支持していました。ハースト家で皆で政治や世界情勢について語るシーンがありますが、マンクはメイヤー達にアカ呼ばわりされていましたね。経営者層が集まるあの場では、ほぼ皆がメリアムを支持しているのでしょう。

そして、マンクの友人であり映画監督であるシェリー・メトカーフの自殺が起こります。MGMでは反シンクレア基金が立ちあげられ、マンクもタルバーグから寄付するように圧力をかけられていました。マンクは寄付を断りますが、その時マンクはタルバーグに「あんたはウソをつくのが上手いんだから、”社会主義者はカリフォルニアの敵だ”と腹を空かせた有権者に思い込ませろ」と言います。恐らくマンクは何の気なしに言ったのでしょうが、マンクの言葉からヒントを得たタルバーグはプロパガンダ映画を撮ることにし、その監督を任されたのがシェリーでした。誰に投票するか有権者にインタビューしている映像を役者を使って撮影し、市民の生活や仕事を守ってくれるのはメリアムであるような台詞を言わせ、それがあたかも本当のニュース映像であるように見せかけたのです。マンクはタルバーグにやめるよう訴えますが聞いてもらえず、プロパガンダ映画に金を出しているのはハーストであることを知ります。イエロー・ジャーナリズムで有名なハーストですから、嘘で世論を扇動することには慣れているでしょう。結局、潤沢な資金を持つハーストやメイヤーによってネガティブ・キャンペーンを展開されたシンクレアは選挙で敗北。そして、でっち上げ映像を撮ったことを後悔したシェリーは自殺してしまうのです。友人として、同じ映画人として、シェリーの後悔と死にマンクはやり場のない怒りを覚えたことでしょう。

マンクはアルコール依存症で皮肉っぽく、一見、弱者救済するようなタイプには見えませんが、実はヒトラーが台頭しているドイツ在住のユダヤ人を村ごと支援してアメリカに移住させていたりと、めちゃくちゃ善良な事してるんですよね。ナチのやり方を批判しているマンクにとって、ナチと同様プロパガンダを用いて民衆をコントロールしたことも許せなかったはずです。だからこそ、上映妨害の圧力をかけられようが、なんとしてもハーストをモデルにした『市民ケーン』を世に出したかったのでしょう。映画を悪用した権力者が逆に映画に利用されて後世まで悪評を知らしめられるのは、痛快ですね。

現在でも共通する問題

ウソの映像で民衆の思想をコントロールするという手法は、フェイクニュース問題として現在でもあります。アメリカ大統領選挙で特に耳にした言葉ですし、実際様々なデマや切り取った映像で意図を歪曲したようなものが世論を惑わせました。マンク達がナチのことを話している時、タルバーグは「誰もやつ(ヒトラー)のことなんか真に受けない」と言っていますが、ナチがどうなっていくかは皆さんご存じの通りです。偽のニュース映画を撮ったシェリーも不安げに「大人なら信じないよな?」と口にしますが、シンクレアの敗北を招きました。我々は存外簡単に信じやすいのでしょう。あたかもニュースのような体裁をとっていたり、政治家や権力者から発せられたものはなお更信じてしまいがちですよね。

現在はSNSが発展し、ユーザー側にも嘘を嘘と見抜く力が求められていて、一時ソースを確認せずに安易にデマやフェイクを信じたり拡散すれば批難されることもあります。しかし、世の中には自分の目で事実を確かめられないことだってたくさんあり、メディア側が自分たちの主張に都合の良いように報道することだってあります。メディアや記者によってはそれぞれ支持する政党や思想があり、フェイクではなくともその色眼鏡を通した記事を読めば知らぬうちに自身も偏っていくことがあるでしょう。さらに近年は技術が向上し、フェイクと見抜くのがより難しいディープフェイクも問題になっています。嘘との戦いはマンクの時代よりもシビアになってきているかもしれませんね。いついかなる時も完全に客観的でいることはもちろん不可能ですが、ジャーナリズムの名の元では可能な限り正確な情報を客観的に伝えてもらいたいと思うばかりです。

そして、嘘やフェイクを利用して扇動したり印象操作することを批判している『Mank/マンク』という映画自体が、事実とフィクションで構成されてるのも面白いですね。あくまでフィクションだってわかっていても、どの部分が虚構なのか知らない人にとっては、これがすべて事実であったように受け取る可能性はあります。真実の中に嘘を混ぜられると、その嘘も真実と認識されてしまいやすいものです。

最後に

この映画が面白かったかどうかと聞かれると難しいところです。特に、予備知識なしで見た最初の40分間は全く面白みが感じられず、ちんぷんかんぷんでした。完全に『市民ケーン』を見たことある方や好きな方向けの映画だと思います。これを見たから『市民ケーン』を見てみたくなったという気持ちはありますが、他の見たい映画やドラマより優先するほどではないかなぁ。