『ナルコス メキシコ編』シーズン3全10話ネタバレ感想:盛り上がるも最後にやや失速し、完結
Netflixドラマ『ナルコス メキシコ編』シーズン3全10話を視聴しました。シーズン2が個人的にあまり盛り上がらなかったのですが、シーズン3はメキシコ編の中では最も熱く、「続きが見たい!」となって一気に見終わってしまいました。カルテルの抗争が激化していくところが特に面白かったですが、最終話はやや面白味に欠けたように感じました。
『ナルコス』シリーズはこれで完結のようです。チャポのお話はやらないんですね…めっちゃ残念です。Netflixではチャポのお話を別で作ってるので、そっちを見ろということかしら。
今のところ、私はNetflixの作品では『ナルコス』が一番好きです。特にコロンビア編が!!なので、終わってしまったのが寂しい。ちなみにシーズン3の3話と4話は、パブロ・エスコバルを演じたヴァグネル・モウラが監督しています。
あらすじ
ミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルドが逮捕され、メキシコのカルテルはそれぞれ独立を果たした。アマド・カリージョ・フエンテスは方針が合わないことを理由にパートナーのアギラルを殺害し、フアレス・カルテルのリーダーの座に就く。北米自由貿易協定が成立することを見据えたアマドは、PRIの有力政治家でティフアナのアレジャノ・フェリクス兄弟の資金洗浄もしているカルロス・ハンク・ゴンザレスとの接触を図った。DEA捜査官のウォルト・ブレスリンはエルパソで潜入捜査を行い、フアレスからのコカインを押収する作戦に出る。
予告動画
登場人物&キャスト
シーズン3で新たに登場した人物や存在感の増した人物を紹介します。
イスマエル・サンバダ・ガルシア
通称エル・マヨ。カルテルに属さず、独自の手法を開拓した密売人です。演じているのはアルベルト・ゲラ。
ビクトル・タピア
フアレスの警察官。薄給のため仲間と共に強盗しています。付近で若い女性の失踪・他殺体が増えていることに気づき、独自に捜査し始めます。演じているのはルイス・ヘラルド・メンデス。
アンドレア・ヌニェス
ティフアナの新聞『ラ・ボス』の若手記者。真実を追い、不正を暴く気概に満ちています。シーズン3のナレーションも務めています。演じているのはルイーザ・ルビノ。
アレックス・ホドヤン
ティフアナ・カルテルのラモン・フェリクス・アレジャノの下で運び屋をしている”ナルコ・ジュニア”。兄も同じくラモンの運び屋をやっています。富裕層の息子です。演じているのはロレンソ・フェロ。
アルトゥーロ・“キティ”・パエス
ラモンの”ナルコ・ジュニア”の一人。演じているのは人気ラッパーであるバッド・バニー。
ネタバレ感想
”空の王者”の隆盛と死
シーズン2の最後、収監されたフェリクスがウォルトに忠告していた通り、フアレス・カルテルのアマド・カリージョ・フエンテスはめきめきと頭角を現してメキシコで最も強力なカルテルのボスとなりました。”空の王者”の異名、かっこいいですね。スペイン語で”El Señor de Los Cielos”、英語で”The Lord of the Skies”。フェリクスの時同様、中二心が疼きます。
シーズン3はアマドのシーズンではありましたが、10話でアマドが頂点に立って転落していくところまでを描いているため、あっという間に彼の時代は終わってしまったような印象を受けました。
視点人物がたくさん出てくるため、ストーリーの焦点が常にアマドに当たっているわけではないので、余計短いように感じたんだと思います。女とイチャイチャしてるだけだったシーンも多かったし。もっともっと麻薬王として暴れてるところが見たかったかも。
アマドは時代の変化を読み、時間をかけて麻薬密売のシステムを構築しました。PRIの政治家であるハンク・ゴンザレスと手を組んで、フェリクスが構想を練っていた「カリ・カルテルからブツで支払わせて立場逆転を図る」という野望も実現させます。ティフアナとシナロアが争っているのを尻目に着々と根回しして、アマドは飛躍したのです。
私にはアマドの築いたシステムが他とどう違ってどう凄かったのかよくわかりませんでしたが、頭がキレるんだなということは伝わりました。流石フェリクスが認めた男です!アマドって社交的だし、他と比べて過激さも控えめに見えるんですけど、エネディナを出し抜いてバジェ北部と独占契約を結んだりと、裏ではきっちり汚く立ち回ってるんですよね。マヨにも言われてましたが、水面下で動くのが得意なのかも。
カリ・カルテルが政府と取引して引退しようとしていた流れは、コロンビア編のシーズン3で詳しく描かれています。そちらでもアマドがパチョと引退について話すエピソードがありましたが、あれとは流れがちょっと変わっていましたね。コロンビア編を見ていなくてもわかりやすいようにしてあるんでしょう。個人的にコロンビア編で見れたアマドとパチョのキャッキャした仲良しっぷりが好きです。メキシコ編でもアマドはエオナのパチョ襲撃計画を知って、パチョにそれとなく政府との取引を考え直させようとしてたし、特別な絆がありましたね。パチョに「兄弟」って呼びかけて電話を切るシーンが切なかったです。それでも、パチョにエオナの計画を話すことはしないんですけど。
アマドはバジェ北部と独占契約を結んだことで、エネディナに命を狙われました。そのため、アレジャノ・フェリクス家と対立することになるのですが、派手な行動を問題視したハンク・ゴンザレスに怒られちゃいます。ハンクから圧力を掛けられ、自分には決定権がないことを悟ったアマドは、ビジネスから手を引くことを決めました。
しかし、アマドの横領に気づいたハンクはそう易々と逃がしてくれません。軍に対する不正も明るみとなって包囲網が厳しくなっていく中、アマドは逃亡のため整形手術を受けるのですが、手術失敗により死亡するという、なんとも意外な最後を迎えました。物語としてはあっけない死に方ですが、事実がそうだから仕方ありません。でも、本当に手術中の事故なのかどうか、なんかちょっと含みを持たせていましたね。もし、事故ではなく誰かが手を回してたんだとしたら、私はハンクだと思います!
アマドの弟ビセンテが初登場しましたが、なんかちょっとアホっぽくてカリスマ性はありませんでしたね。でも、アマドの死後は彼がフアレス・カルテルのリーダーになるようです。
ティフアナとシナロアの対立激化
メキシコと国境を接するティフアナはフェリクスの予言通り最強となりました。一方シナロアは国境を持っていなかったため、ティフアナからの過重な通行税に苦しめられます。元々仲が悪かったティフアナとシナロアですが、我慢ならなくなったチャポはアレジャノ・フェリクス兄弟を襲撃しました。兄弟は辛くも無事であったものの、カルテル間の対立が激化します。報復のため、ラモンは部下を率いて空港でチャポを襲撃し、騒動に巻き込まれたカトリック教会の枢機卿と一般人数名が犠牲となりました。
ティフアナとシナロアのドンパチがシーズン3で最も熱く面白い展開でした。カルテル同士の抗争キタキター!盛り上がってきたー!って感じ。チャポのクラブ襲撃も、ラモンの空港襲撃も、見てるだけで息が詰まってすごく見応えがありました。特に空港襲撃では巻き込まれた一般人の恐怖、無関係の人間の死を何とも思っていないギャングのクズさが伝わってきましたね。
ラモンの襲撃を逃げ伸びたチャポはグアテマラへ逃亡しようとしますが、買収したはずのグアテマラ将校が裏切り、チャポは逮捕され刑務所へと送られてしまいました。そして、刑務所でドン・ネトと再会しました。ドン・ネトはチャポがシナロアのリーダーになるよう導いていきます。
またドン・ネトと会えるとは思ってなかったので嬉しかった!!相変わらず顔面の圧がすごい。これ以上ないってくらい”ドン”に相応しい顔。
一方、ティフアナのベンハミンも軍に追われて逃亡生活に突入します。ベンハミン不在中は妹のエネディナがカルテルの指揮を執るのですが、会談の度にマヨやアマドから「家族の総意か?」と聞かれてるあたり、女のリーダーなんて…っていう女性蔑視的な世界を表してるんですかね。長兄のフランシスコはなんか存在感がないし、弟のラモンは武闘派のアホだし、エネディナが適任としか言いようがない。彼女も負けず嫌いなので強硬路線を強め、シナロアだけでなく裏切ったアマドとも対立していきます。
アスールはお食事中に銃撃されてあっさりお亡くなりに…アスールらしくてちょっと笑いました。チャポは刑務所、アスールは死亡、パルマは逃亡中と、シナロア・カルテルは最早壊滅状態になります。そんな時、エネディナに大事な漁船を燃やされてしまったマヨがシナロアにつくことを決意してくれるのです。どのカルテルにも属さず、自分のボスでありたいと言っていたマヨがティフアナ・カルテルの敵に回ったのです。
今シーズンから新たに登場したこのマヨ、いいキャラですね。キュートな笑顔で温和と見せかけておいて、派手に暴れて盛り上げてくれました。チャポは刑務所から出られないので、実質マヨが瀕死のシナロアに息を吹き込んだように見えました。
マヨはエネディナに命を狙われたアマドとも手を組み、ティフアナに反撃を始めます。アレジャノ・フェリクス兄弟に税を払っているティフアナの密売人たちを力づくで次々と寝返らせていったのです。
アマドもマヨも敵に回って麻薬戦争は一層激しくなっていくんだという感覚を、私はエネディナの立場から感じました。首無し遺体が並べられてたり、遺体が吊り下げられてたり、こういう風景がメキシコでは現実にあるんですよね。
ティフアナもやられっぱなしではありません。ハンクに怒られたアマドが途中で抜け、ティフアナの報復にシナロアは追い込まれていきました。ベンハミンも戻ってきたことでティフアナは復活の兆しを見せ始めますが、マヨの策略によりラモンが死亡してしまいました。
一方チャポは、自分が正式にシナロアのボスとなるべく、パルマとドン・ネトを別の刑務所へと移送させるよう手を回していました。刑務所から頑張って指示を出してたのはチャポですから、偉ぶってるパルマを厄介払いするのもやむなしだとは思ったけど、ドン・ネトも厄介払いされちゃいました(笑)。確かに、ドン・ネトが横にいたらチャポがリーダーに見えません。チャポとネトの別れの会話、ユーモアがあってすごく良かったです。チャポの時代はこれからですね。『ナルコス』が描くチャポの時代、見たかったなぁ…。
またも煮え湯を飲まされるDEA
枢機卿がカルテル同士の銃撃戦に巻き込まれて死亡したことで、アメリカとメキシコは共同戦線を張りました。ウォルトは現地入りを志願してティフアナへ飛び、対麻薬戦争の指揮を執るレボジョ将軍の元でカルテルを追うことになります。レボジョ将軍は1話冒頭でアマドを捕らえて刑務所送りにし、お金とコカインを燃やした男です。レボジョ将軍の作戦にかける真摯で熱い言葉を、ウォルトは信じました。私も信じました。
ウォルトのファインプレーによりアレジャノ・フェリクス家の長兄フランシスコは逮捕できたものの、今一歩のところでラモンは取り逃がしてしまいます。しかも、”ナルコ・ジュニア”のアレックスには上手く誘い出されて軍側に犠牲者を出してしまいました。アレックスに騙される流れは、コロンビア編でペーニャがマリッツァの情報を信じてエスコバルの罠に嵌り、カリージョが死んでしまった展開と似ていましたね。
軍はアレックスの捕獲に成功し、ウォルトはまだ少年であるアレックスへの拷問を黙認します。その上、兄の死を伏せたままアレックスを利用してベンハミンの情報を引き出すのですが、結局ベンハミンを捕まえることはできませんでした。
そんな中、ウォルトに更なる悪い情報がもたらされます。なんと、レボジョ将軍はアマドに買収されていたのです。
『ナルコス』見てると、DEAなんてやってらんねーよって気持ちになりますよね…。どの作戦に従事しても買収された人間に踊らされたり上層部の都合に振り回されるばかりで、一体どうやって精神保ってるの?私もうレボジョ将軍のこと信じ切ってたのでめっちゃビックリしました。え、1話冒頭でアマドを逮捕した後に買収されたんですか?将軍のティフアナ赴任時から送金されてたんでしょう??あの逮捕も茶番???もう私には理解し切れませんが、とにかく、完全にアマドにしてやられました。麻薬撲滅作戦の陣頭指揮を執ってたのが麻薬カルテルに買収された人間だったとか…虚しさを通り過ぎて笑い話にできそう。
マヨがアマドに「軍には全カルテルがやられてる。フアレス以外」って言ってたのは伏線だったんですね。マヨはほんと鋭くて頭がキレるな。
保護したアレックスに逃げられたのは完全にウォルトの失態だと思いますが、アレックスがアレジャノ家に殺害されて吊るされてたというのも、ウォルトの立場からすればやり切れないですね…。ウォルト散々じゃない?
真実は葬られる
ティフアナの新聞社ラ・ボスの記者であるアンドレアは、ハンク・ゴンザレスとカルテルの癒着を暴こうと真実を追い求めます。しかし、なかなか決定的な証拠を掴むことができません。
ティフアナ・カルテルがハンクに送金しているのではないかと考え、カルテルの金の流れから人間関係まで調べた結果、ハンクではなく、レボジョ将軍に送金していたことを突き止めました。
レボジョ将軍とアマドの不正を暴いて逮捕・失脚へと導いたのは大手柄でしたが、結局ハンクを追い詰めることはできませんでした。毎回、一番汚い政治家が裁きを受けずに終わるんですよ。シーズン1&2のアンドレス大臣も有耶無耶だったし。すごく腹立たしいけど、これが現実か。
本丸は落とせませんでしたが、アンドレアの記者魂は凄かったですね。命の危機がある中、ラ・ボスの記者たちは真実を報道する信念を貫きました。葬り去られそうだった真実を、こういうジャーナリストの方々がひとつでも多く掬い上げてきたんでしょう。敬服します。
フェミサイドを追うフアレスの警官
フアレスの警官であるビクトル・タピアは、町に若い女性の失踪・他殺体が増えていることに気づいて単独で捜査を始めました。アマドの弟ビセンテの仕事を手伝いながら、DEA捜査官のハイメにビセンテの情報を流し、その見返りに被害者のDNA検査などを頼むのですが、なかなか犯人の手掛かりは掴めません。
10話かけて明らかになったのは、1990年代に国境近くの工場で働く女性たちの遺体が砂漠地帯で発見され始め、何百人もの女性たちが殺されているのに、当局は何年もこのフェミサイドを無視し続けていたということでした。そして、フェミサイドの問題は今なお続いています。
フェミサイドが深刻な問題だというのはわかりますが、なんだかビクトルのプロットだけ浮いているように感じました。ずっと、カルテルの関与に繋がっていくのかな?と思いながら見ていたのですが、最後まで直接的な関与があるような描写はなかった。複数の犯人が同じ場所に遺体を捨ててるらしいので組織的な犯罪でしょうし、警官の一人がビクトルに「深入りするな」的な忠告してたのでカルテル絡みっぽいと想像できますが、明確じゃありませんでした。
フアレスのフェミサイドが麻薬カルテルと無関係だとは思いません。カルテルのせいで治安がすこぶる悪く、警察や政治家も腐敗しているからこんなことが起こっているんでしょうし、ギャングが女性の殺人・暴行を行っているだろうことは容易に想像がつきます。
でも、ドラマの中でギャングメンバーが一般市民の女性を乱暴して殺害しているシーンって出てこないじゃないですか。ビクトルが追って射殺した男がカルテルと関係してるのかもよくわからない(当然、フェミサイドはカルテルによってのみ行われるわけではありませんが)。フアレスのフェミサイドはカルテルと無関係じゃないはずなのに、繋がってるように見えなかったんですよ。だからビクトルのストーリーだけ浮いて見えてしまった。フェミサイドという今欧米世界が問題視している事象をどうにか入れたかったんでしょうね。
『ナルコス』は麻薬王とそれを追うDEA捜査官の話で、私はそれを楽しみに見ているわけで、視点人物を用意して10話かけて追う話は当然そこにしっかり絡んできてもらわないと「これは何だったの?」となってしまうんです。これだったら、『ナルコス』ではなくフェミサイドを問題視した別のドラマを用意した方が良かったんじゃないのかなって感じてしまいました。『ナルコス』で扱うことで多くの人に問題提起したかったんなら、もっと本筋と上手く絡めた展開にしてくれ~~。
また、ビクトルというキャラの心情もいまいち理解できなかったんですよね。90年代初頭のフアレスの警官のお給料は、それだけだと生活できないほど少なくて、そのため警官が犯罪を犯すしかなかったそうです。ビクトルも仲間の警官とともに強盗殺人を行っていました。そんな中、近所の知り合いから行方不明の姪の捜索を依頼され、最初はそんなに興味がなさそうだったけど、同様の事件が増えていることに気づき、一人で捜査を始めるわけです。
普通に殺人を犯していたビクトルが、命の危険を冒してまで身内や恋人でもない女性たちの失踪・殺人事件の犯人を追うようになったのは、一体どういう心理なんですかね。警官をクビになってからも追い求める熱量ですよ。彼にとって許せるものと許せないもののボーダーラインがよくわからない。
というわけで私はビクトル視点の物語がピンとこなくて、これが最後に失速を感じた理由です。
最後に
そういえば、ガルフ・カルテルが蚊帳の外でしたね。エネディナの結婚式にいたぐらい?あの結婚式、仲が悪いのにガルフやシナロアのメンバーを招待してるのが不思議でした(笑)。
チャポの時代も見たかった(何度でも言う)というとてつもなく名残惜しい気持ちがありますが、最終シーズンにちゃんと盛り上がりを感じることができて個人的には良かったです。
メキシコの麻薬戦争、まだこれからじゃないのぉ~?シーズン4も作っちゃえばいいのに!