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『アス(Us)』ネタバレ感想:一体何を伝えたいのか?不気味で風刺的なホラー

アス

映画館で観たいと思っていたけど観れなかった映画『アス』(原題:Us)がAmazon Primeにあったので観てみました!宗教的な文脈も出てきますし、解釈が難しい部分もありますが、とても面白かったです。最初のタイトルクレジットの時にかかる特徴的で不気味な曲(Anthem)が耳から離れません。あれ、歌詞は何を言ってるんでしょうか。
監督は『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールです。『ゲット・アウト』も一風変わった面白いホラー映画でしたね。個人的に『アス』の方が好きです。
主演は『それでも夜は明ける』でアカデミー助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴ。Huluオリジナルドラマの『ハンドメイズ・テイル』で主人公を演じているエリザベス・モスも出演しています。このお二人の演技がすごいなと思いました。めっちゃ怖い。

あらすじ

アメリカ本土の地下には数千キロのトンネルがあるという。しかし、その存在はほとんど知られていない。
1986年の夏、ホームレスと飢餓を救済する募金のために、アメリカの東海岸から西海岸まで600万人の人々が手を繋いで人間の鎖を成す『ハンズ・アクロス・アメリカ』というチャリティキャンペーンが行われる。
その夏、アデレード・ウィルソン(愛称アディ)は、両親とともにサンタクルーズの海にある遊園地に遊びに来ていた。母親がトイレに行き、父親がゲームに夢中になる中、アディはひとりでビーチの方へ向かう。その途中、「エレミヤ書11章11節」と書かれたプレートを持つ男と擦れ違う。夜のビーチにあった「ビジョンクエスト 本当の自分を探そう」と書いてあるミラーハウスへ入り、不気味なそこで、アディは自分とそっくりな少女と出会うのだった…。

作品情報&予告動画

原題Us
監督ジョーダン・ピール
脚本ジョーダン・ピール
音楽マイケル・エイブルズ
撮影マイケル・ジオラキス
編集ニコラス・モンスール
出演者 ルピタ・ニョンゴ
ウィンストン・デューク
エリザベス・モス
ティム・ハイデッカー

ネタバレ感想

わたしたち(Us)とは?

ミラーハウスで僅かの間行方不明になったアディは無事に両親の元へ帰りますが、それからアディはしばらく喋れなくなってしまいました。
成長したアディは結婚し、夏休みに夫ゲイブ、娘ゾーラ、息子ジェイソンと共に、気乗りしないものの久しぶりにサンタクルーズの海にやってきました。そこで友人のテイラー一家と会います。しかしその夜、別荘に戻ったアディとゲイブは、庭に揃いの赤いジャンプスーツを着て手を繋いで立っている4人家族を見ます。不気味な動きを見せる4人に家の中に侵入され、彼らの顔を見たアディたちは驚愕しました。全員、アディたちと顔が同じなのです。ドッペルゲンガーです。「何なの?」と問うゾーラに、ジェイソンは「僕たちだ(It’s us)」と答えました。言葉を話せるのはアディと同じ顔をしたレッドだけ。それも、めちゃくちゃ不気味な喋り方です。

ドッペルゲンガーたちは、政府によって製造され見捨てられたクローン人間だそうです。肉体は複製できたけど魂は作れなかったから1つの魂を分け合ったのだと言う。魂を分け合うってどうやるの?とか思っちゃいますがそんな細かいことはどうでも良いのです。雰囲気で理解することは時に大切です。
クローン人間達は自分たちのことをテザード(Tethered)と呼びますが、これは「繋がれた者」という意味です。テザリング(tethering)と同じスペルですね。
オリジナルの人間が地上で美味しいごはんを食べ、おもちゃをもらって幸せに生活している一方で、たくさんのテザードたちは生のウサギを食わされ、ハサミをおもちゃとして与えられ、地上の人間が取る行動を何もない地下でミラーリングしながら生きていたのです。ミラーハウスで思わぬ出会いをしたレッドはアディを憎みました。レッドはテザード達のリーダーとなり、長い年月をかけて計画を立て、地上に出てきたのです。

ゲイブが「お前ら何者だ?」と問うと、レッドが「アメリカ人だ(We’re Americans)」と答えるシーンがあります。この答えはものすごく象徴的だと思うんですよね。冒頭に出て来たテロップ、アメリカ本土の地下にはほとんどの人が知らないけれどトンネルが存在すると。そして、そういうところには多数のホームレス等の貧困にあえぐ人たちが存在しているのです。「ハンズ・アクロス・アメリカ」は、ホームレスを救うための募金活動として実際に開催されたイベントです。わたしたちは偽善的な行いで弱者を助けたフリして満足しているかもしれませんが、本当にそれは彼らの救いになってるんでしょうか。そして、虐げられていた人たちが脅威を持って姿を現した時、自らを守るために彼らを惨たらしく殺すのです。ジェイソンはテザードを殺す時の怖ろしい姉と母の姿を見ていましたね。最後、レッドを殺しているアディの姿もロッカーから見ていたはずです。この映画は、わたしたちの生活のために踏みつけられているものの存在と、わたしたち自身の中に潜む傲慢さと恐ろしさを突きつけてきたのではないでしょうか。ちなみに、監督はインタビューで「最大の敵は自分」という発想からアイディアを固めていったと語っています。

主題ではないかもしれないですが、人種問題も散りばめられてそうです。わざわざ黒人家族と白人家族が対比的に出てきますから。置き鍵をしていたアディにゲイブが「白人か!」って突っ込んでる場面もありましたね。
今、現実では白人警官に黒人が殺された事件を切っ掛けに、Black Lives Matterとして抗議活動などが活発になっています。人種差別の問題は根強くて、強く抗議していくことは必要ではありますが、一方でズレている面があると思いませんか。被害者を置き去りにして、自分の政治的主張を通すための道具として黒人の死を利用するような過激な動きがありますよね。ご遺族の方が苦言を呈していました。「ハンズ・アクロス・アメリカ」と似てるように思います。つまり、自己満のパフォーマンスにすぎない部分があるのです。行き過ぎた結果、今や有色人種役の声は有色人種が演じるべきだ、などという動きがでてきてます。わたしはこれも、そういうことじゃないでしょって思うんですよね。アメリカ(だけでなく世界に)に蔓延る人種差別も、被害者達を置き去りした活動も、どっちも恐ろしいダークサイドに見えます。

しかし、白人家族(テイラー一家)の方は全員有無を言わさず殺されたのに、黒人家族(アディたちウィルソン一家)の方はなぜわざわざゲームみたいなことをされたんでしょう?レッドは、長年の復讐のためにあっさり殺すのではなくじわじわと恐怖を味合わせたかったということでしょうかね。それと、こういうホラー映画だと母は強く生き延びて父は死んでしまうことが多いと思うのですが、生き残ったのが嬉しかったです。

タイトルの『Us』を見た時にアメリカ批判かな?とうっすら思いましたが、貧困・格差問題や人種問題に対する社会的メッセージと考えると、やっぱりそうですよね。『United States』と取れますもんね。監督はインタビューで、目を背け続けるアメリカを批判しています。

アディとレッド

最後に明らかになりますが、幼少の頃にミラーハウスでアディとレッドが出会った時、ふたりは入れ替わったのでした。本来のレッドが、地上でアディとしての人生を歩んできたのです。行方不明後、しばらく喋れなかったというのは、そういうことだったのです。テザードの中で唯一レッドだけが喋れたのは、地上で生まれて生活していたアディだったからです。声がしゃがれていたのは、首を絞められて喉を潰されたからです。そりゃあ、憎しみも深くなりますね…。本当なら自分が享受するはずだったものを全部奪われて地下に落とされたのですから。ミラーハウスに行く幼少のアディが長い階段を下りて行ったのに対し、レッドは長いエスカレーターで上がって行ったのが対照的でしたね。『パラサイト』と同様、格差の象徴のように見えます。

地下でふたりが対峙し、音楽に合わせて踊るように動くシーンがすごく不気味なんですけど印象的でした。

エレミヤ書11章11節

劇中に度々出てくるエレミヤ書11章11節。エレミヤ書は三大預言書のひとつと言われています。エレミヤとは古代ユダヤの預言者で、唯一神ヤハウェに従わないイスラエルの民に対して、いずれバビロンに滅ぼされることになると警告するよう神から召命を受けた預言者です。他の神の信仰に走った人たちに対して、災いが起きるぞって言ってるんですね。そして実際、エルサレムはバビロンに滅ぼされ、バビロン捕囚として民は連れて行かれてしまうのです。全52章からなるエレミヤ書の11章11節は下記のようになっています。

それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。

引用元:エレミヤ書11章11節

言うこと聞かない民にヤハウェ激おこって感じですね。テザードが作られた目的って、地上の人間を操り人間のようにコントロールするためだったんですよね。けれど失敗したから見捨てられた。コントロールの効かない人間に対する災いとも取れますね。

うさぎの意味

うさぎの意味はなんでしょうか。映画を見ていてもよくわかりませんでした。調べてみたところ、うさぎというのは多産・繁栄の象徴のようです。地下でめっちゃ繁殖してましたもんね。人間も地上で増えすぎていますし、そのことに対するメタファーなのかもしれません。

ハサミ

テザードたちはハサミを持って襲ってきます。なぜハサミなのでしょう。これも、劇中では特に理由は示されていません。インタビューにおいて監督は、ハサミについて「恐怖を持つ象徴的なアイテムだと思う」と述べています。また、「左右対称」であることも特徴に挙げています。確かにそうですね。また、テザードという「繋がれた者」を断ち切るようなイメージも想起させます。

ジェイソン

ジェイソンと言えばホラー映画『13日の金曜日』の殺人鬼ですが、それを連想させるかのように、アディの息子ジェイソンも仮面をかぶってるんですよね。
彼はどうも、変わった少年のようです。ビーチでひとりトンネルを掘っている時に、テイラー家の双子に「変わってる」って言われてました。ジェイソンが自身のドッペルゲンガーであるプルートーを殺す時、自分の真似をすることを逆手にとって炎の中へと誘導しましたね。あそこの演出、すごく上手いなあと思いました。ふたりで物置にいた時、ジェイソンはプルートーが自分と同じ動きをすることに気づいてましたね。でもどうして罠だって気付いたんでしょう。魂を分け合った存在だからわかるのでしょうか。アディもメキシコへ逃げるって言い出した時、「彼らに考えを読まれる」って言ってました。ジェイソンは、アディとレッドが入れ替わった存在であることにも気づいた素振りを見せていましたよね。そして、頭の仮面を下ろしてしまうのです。気づいたけれど、見て見ぬフリをするということでしょうか。

ジェイソンは、アディと同じくテザードと入れ替わってるという説があるようです。人とコミュニケーションを取るのがちょっと苦手(アディもキティに会話が苦手と言ってる)で、地下を連想させるかのように砂場でトンネルを掘っているなど、推察できる点があるみたいです。
わたしは視聴した時全然そんな考えに至らなかったのですけど、代わりに、ジェイソン(とゾーラ)はテザードの子供という部分が引っかかりました。監督が「最大の敵は自分」と言ったように、テザードは自分自身の闇でもあります。闇から生まれたジェイソンの中の狂気性が人より大きく、何かを燃やしたいという欲求が強いんじゃないでしょうか。だから、プルートーが罠をしかけて火をつけようとしていることがわかったんじゃ…?ゾーラもかなり攻撃的にテザードを殺してましたしね。ゲイブがアブラハムを殺す時はすごく嫌そうな顔をしてるのに対し、ゾーラはかなり狂気性があるように見えます。まあ、闇が遺伝するとかいう考え方は問題がありそうなので、穿った見方でしょう。本来のアディから生まれたアンブラとプルートーはどうなのとか考えたらわけがわからなくなりますし。

気になったけれどわからない点

①アディがミラーハウスに入った時に流れている物語
「ソツはタオワンに言った~」みたいな始まりのやつです。これは何でしょう?聖書系?

②フリスビーの意味
ビーチでアディとキティが話していると、フリスビーが飛んできますよね。青いドット柄の上に、赤地に黄色の星が描かれたフリスビーが意味ありげに綺麗にハマりますが、何を意味してるんでしょう。

③地上に出たテザード達が人間の鎖を作る意味
特に意味を確定させなくてもいいとは思いますが、ちょっと気になります。テザード達がようやく地上に出てやったことが人間の鎖を作ることだったというのはどういうことなんでしょうね。アディが入れ替わった日に着ていたのが「ハンズ・アクロス・アメリカ」のTシャツだったんですよね。レッドになった彼女はそれをロッカーに飾って眺め、地上に出る決意と復讐心を固めていった。そして、レッドは「世界に知らしめるために声明を出す必要があった」と言ってました。自分たちの存在を知らしめるためのパフォーマンスということでしょうか。

最後に

不気味さがありながらもところどころ明るい音楽やコミカルな動きで魅せてくれ、最後まで飽きることなく鑑賞できました。すっきりと理解するのは難しいですが、多義的な意味を考えることができてとても面白い社会派ホラー映画だと思います。音楽の使い方もすごくセンスがあって良いんですよね。考察好きなホラー好きさんにおすすめです。

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