映画『ヒトラーのための虐殺会議』ネタバレ感想:史上最悪のナチ会議

映画『ヒトラーのための虐殺会議』を視聴しました。1942年1月20日にベルリンの高級住宅地ヴァン湖(ヴァンゼー)畔の邸宅で行われたヴァンゼー会議を描いたドイツの映画になります。ヴァンゼー会議とは、ナチスの高官達が「ユダヤ人問題の最終的解決」について討議した会議です。ひたすら会議でのやり取りが描かれているだけなので、クライマックスと呼べるようなシーンや最後に何かしらのオチがあるわけではなく、終始胸糞悪い思いをするのですが、こんな会議が実際にあったことから目を背けてはいけないのでしょう。
登場人物の名前と顔と役職をある程度把握してから視聴した方が理解しやすいと思いました。
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あらすじ
1942年1月20日、第二次世界大戦中のドイツ・ベルリンのヴァンゼーにある邸宅に、国家保安部長官のラインハルト・ハイドリヒに招かれた14名のナチス親衛隊や各省庁の次官が集まった。会議の議題は「ユダヤ人問題の最終的解決」について。ヨーロッパ全土にいる1,100万人のユダヤ人の絶滅を目指すナチスは、その移送や収容・殺害方法について、各々の負担や権限にのみ腐心しながら粛々と決定していく。
作品情報&予告動画
原題 | Die Wannseekonferenz |
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監督 | マッティ・ゲショネック |
製作総指揮 | オリヴァー・ベルビン |
撮影 | テオ・ビールケンズ |
編集 | ディルク・グラウ |
出演者 | フィリップ・ホフマイヤー ヨハネス・アルマイヤー ジェイコブ・ディール |
登場人物&キャスト
ラインハルト・ハイドリヒ
国家保安本部長官、ベーメン・メーレン保護領総督代理、親衛隊(SS)大将。会議のチェアマンです。親衛隊全国指導者であるハインリヒ・ヒムラーに次ぐ実力者で、ドイツの政治警察権力を一手に掌握しており、「ユダヤ人問題の最終的解決」の実質的推進者です。殺人部隊「アインザッツグルッペン(行動部隊)」を組織した人物でもあります。演じているのはフィリップ・ホフマイヤー。
ハインリヒ・ミュラー
国家保安本部ゲシュタポ局長、親衛隊中将。ゲシュタポは秘密警察のことです。ゲシュタポ局長として「ユダヤ人問題の最終的解決」の計画と遂行を推し進めています。演じているのはジェイコブ・ディール。
アドルフ・アイヒマン
国家保安本部ゲシュタポ局ユダヤ人課課長、親衛隊中佐。ミュラーの部下で、会議では議事録作成を担当しています。数多のユダヤ人を強制収容所送りにした人物です。ヴァンゼー会議があったことは彼の残した議事録が裏付けとなっています。演じているのはヨハネス・アルマイヤー。
オットー・ホフマン
親衛隊人種・植民本部、親衛隊中将。ユダヤ人への強烈な嫌悪を露わにしています。演じているのはマルクス・シュラインツァー。
ヴィルヘルム・シュトゥッカート
内務省次官。事前に根回しされていたことや、越権行為ともとれるようなハイドリヒ主導のやり方に唯一異論をはさみます。反ユダヤ主義法「ニュルンベルク法」の作成に携わりました。演じているのはゴーデハート・ギーズ。
ゲルハルト・クロップファー
党官房局長、親衛隊准将。ヴァンゼー会議の出席者の中で最も長生きした人物だそうです。演じているのはファビアン・ブッシュ。
フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリツィンガー
首相官房局長。元軍人で、虐殺を遂行する現場の兵士達の精神的負担を憂いています。演じているのはトーマス・ロイブル。
マルティン・ルター
外務省次官補。「最終的解決」の対象がヨーロッパ中のユダヤ人であることに驚きます。演じているのはジーモン・シュヴァルツ。
エーリッヒ・ノイマン
四か年計画庁次官。演じているのはマティアス・ブントシュー。
ローラント・フライスラー
法務省次官。ナチス政権下の政治犯罪を裁く「人民法廷」の長官を務め、見せしめを含む多くの死刑判決を下しました。演じているのはアルント・クラヴィッター。
アルフレート・マイヤー
東部占領地域省次官・北ヴェストファーレン大管区指導者。演じているのはペーター・ヨルダン。
ゲオルク・ライプブラント
東部占領地域省局長。演じているのはラファエル・シュタホヴィアク。
ヨーゼフ・ビューラー
ポーランド総督府次官。演じているのはサッシャ・ネイサン。
カール・エバーハルト・シェーンガルト
ポーランド総督府保安警察・保安部司令官、親衛隊准将。演じているのはマキシミリアン・ブリュックナー。
ルドルフ・ランゲ
ラトヴィア全権区保安警察・保安部司令官、オストラント全権区保安警察・保安司令部代理、親衛隊少佐。アインザッツグルッペンを指揮してラトビアで大虐殺を行い、その成果をハイドリヒに評価されました。演じているのはフレデリック・リンケマン。
ネタバレ感想
「最終的解決」について誰も反対しない恐怖
「ユダヤ人問題の最終的解決」について討議されたヴァンゼー会議とは、ヨーロッパ中にいる1,100万人のユダヤ人をどう移送し、どこに収容し、どういう方法で殺害するかを決めた会議です。ナチスは会議が開かれるより前からユダヤ人を差別し、占領していた東ヨーロッパやソ連のユダヤ人の虐殺を組織的に行っていました。そして、ヨーロッパ中のユダヤ人を根絶やしにするべく、本格的にホロコーストを進めるシステムを構築したのがこの会議だったわけです。なので、この会議があってからユダヤ人差別やホロコーストが始まったのではなく、この会議によってそれらが加速したのです。
既に各地に絶滅収容所を建設している(する予定?)描写が出てきました。この会議でアイデアを出して詳細を詰めるとかいう流れではなく、ほぼほぼ構想は決まっていて、それについて関係省庁の承認を得るための会議という感じでしたね。ユダヤ人絶滅という目標に異議や疑問を唱える人など一人としていません。会議の出席者達は、現状既に収容所がいっぱいなのに更に自分の領内にユダヤ人が送り込まれてくることの心配だとか、自分がかつて作成したユダヤ人に関する法律を蔑ろにされて専門外の人間が新たに法律を作ろうとしていることに対する遺憾だとか、ユダヤ人を処分する作業にあたる兵士達の心理的精神的負担についての心配だとか、そんなことばかり口にするのです。
こんなにも非人道的なことを国家の中枢を担う人達が平然と推し進めて議論している様子を見るのは、本当に胸糞悪かったです。全然彼らの考えや気持ちを理解できない。彼らにも良くないことをしている認識はあるのでしょう。終始「虐殺」と直接的には言わずに、遠回しな表現を用いているのですから。倫理的に間違っていることも、知られたら国際社会からの批難は免れないことも絶対にわかってるはずです。でも誰一人こんなのおかしいって言わないし、ユダヤ人を絶滅するという前提を変えようとはしないのです。
彼らは、先の大戦では一緒に戦ってくれたユダヤ人がいることもわかっています。それでもこの仕打ち。ユダヤ人とドイツ人の混血についてどうするかの話も出るのですが、ハーフならアウトでクォーターならセーフだとか、劣った血が入ってるのだから全てアウトだとか、断種させればいいだとか、見てるこっちの顔がどんどん険しくなる台詞ばかり飛び交います。それまで社会に溶け込んでいた人達を根絶やしにしてやろうとするまでに至った強い憎悪のようなものを、彼ら一人一人が持っているようには見えません。ヒトラーの意向だから、そういう空気だから、何となく嫌だから、劣っているとされてるから…大体がそういう理由なんじゃないかと思うのです。悍ましい議題を掲げて差別語が飛び交う会議の様子から、優生思想が浸透してしまっている社会の恐ろしさをひしひしと感じました。
現在とはまるで異なる価値観・倫理観で話す彼らはもうすっかり過去のことで、こんな酷いことは先進国とされる国ではもう起こらないだろう。そんな楽観的に考えてはいけないと思いました。彼らだって最初からこんな思想を持っていたわけではありません。ホロコーストは起きてなくても、憎しみや偏見からくる差別は現在でも当たり前にあります。何かがきっかけでまた歴史が繰り返さされる可能性は十分にあるのです。人間はいつでも彼らと同じ思想に取り憑かれることがあることを胸に刻み、自分の思想や行いは正義だと思い込まないように、一人一人が省みることが必要だと思いました。
最後に
議長を務めたラインハルト・ハイドリヒや会議の議事録を作成したアドルフ・アイヒマンに関する作品は他にもありますね。ハイドリヒのなら『ハイドリヒを撃て!』や『ナチス第三の男』、アイヒマンのなら『アイヒマンを追え!』や『アイヒマン・ショー』などでしょうか。私が見た記憶があるのは『アイヒマンを追え!』だけですが、こちらも淡々とした映画でしたが一見の価値ありです。