Lazy M のすべて ぐーたら主婦による海外ドラマ、映画のレビューや旅行記など

Menu Close

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

映画『西部戦線異状なし』ネタバレ感想:名作古典戦争映画のリメイク

映画『西部戦線異状なし』

Netflixで配信されている映画『西部戦線異状なし』を視聴しました。映画好きな方なら1930年の第3回アカデミー賞で作品賞と監督賞を受賞した同名映画をご存知でしょうが、今回視聴したのはそれではなく、2022年にドイツが製作したリメイク版です。原作は1929年に出版されたエーリヒ・マリア・レマルクの同名の反戦小説で、1930年版の映画はアメリカが製作した作品でした。第一次世界大戦の西部戦線に配属された若いドイツ人兵士を描いています。ちなみに私は原作小説は未読で1930年版の映画も未視聴です。以前感想記事を書いた映画『1917 命をかけた伝令』と時代背景や舞台が同じですね。あちらはドイツの敵側であるイギリス兵の視点でしたが。

映画『1917 命をかけた伝令』ネタバレ感想:死の匂いが感じられそうなほどの臨場感
映画『1917 命をかけた伝令』ネタバレ感想:死の匂いが感じられそうなほどの臨場感
Amazonプライムで配信されていた映画『1917 命をかけた伝令』を鑑賞しました。配信が始まった時から見たいな~と思ってたのですが、Netflixのドラマばか…

この映画には戦争の虚しさがこれでもかと言うほど詰まっていてかなり辛いですが、ロシアがウクライナに侵攻して一年が経ち、中国が謎の気球を飛ばしているニュースなどで世界の緊張が増している中、見るべき映画の一本だと思いました。

あらすじ

攻撃命令を受けたハインリヒは塹壕を出て、仲間が次々と撃たれては倒れる戦場を必死に駆け抜けた。場面は変わり、積み上げられた兵士達の死体から衣服が回収され、血で汚れた軍服は洗われて女性達の手で縫い直されていく。第一次世界大戦が開戦して3年が経った1917年。パウル・ボイマーは学友達と共に兵士に志願する。意気揚々と軍服を受け取ったが、そこにはハインリヒ・バーガーの名が付けられていた。

作品情報&予告動画

原題Im Westen nichts Neues
監督エドワード・ベルガー
脚本イアン・ストーケル
レスリー・パターソン
エドワード・ベルガー
原作エーリヒ・マリア・レマルク著『西部戦線異状なし』
音楽フォルカー・バーテルマン
撮影ジェームズ・フレンド
編集スヴェン・ブデルマン
出演者フェリックス・カマラー
アルブレヒト・シュッフ
ダニエル・ブリュール
アンドリュー・スコット
ゼバスティアン・フールク

登場人物&キャスト

パウル・ボイマー

ドイツの若き兵士。母親に反対されていたにも関わらず祖国のためにと意気揚々と志願しましたが、戦場で悲惨な現実を知り、その志を打ち砕かれます。演じているのはフェリックス・カマラー。

スタニスラウス・”カット”・カチンスキー

パウルが所属された歩兵連隊の古参兵。故郷に帰りを待つ妻がいる靴職人さんです。文字が読めません。演じているのはアルブレヒト・シュッフ。

アルベルト・クロップ

パウルの学友の一人。パウルと同じ部隊に所属されます。演じているのはアーロン・ヒルマー。

マティアス・エルツベルガー

ドイツ首席全権。戦況が悪化し、死者が激増していることに胸を痛めています。連合国と休戦するよう陸軍最高司令部を説得し、ドイツ代表団として連合国との交渉に臨みます。演じているのはダニエル・ブリュール。

フリードリヒ将軍

ドイツ陸軍の将軍。休戦協定を快く思っておらず、交渉団を売国奴呼ばわりしています。演じているのはデーヴィト・シュトリーゾフ。

ネタバレ感想

どうしようもないほどの虚しさに襲われる

舞台は第一次世界大戦で、フランスに侵攻するドイツ軍側を描いています。主人公のパウル・ボイマーは同じ学校の友人達とともに志願しました。皆最初はとても士気が高くて、祖国のために戦うことは名誉だと考えているし、学校の先生も戦意アゲアゲなスピーチで若い学生達を送り出しています。母親が食事の心配をしていたなんて台詞もあったぐらい、誰も戦場がどういうものかわかっていない感じがありました。戦争をしているわけですから国全体で士気を高めて戦いを美化しているのは当たり前なのですけれど、今日本で戦争が起きたとして、日本の若者が彼らのように意気揚々と戦いに参加する絵がどうにも想像できません。時代の違いももちろんあるけれど、ロシアに侵攻されたウクライナでゼレンスキー大統領が国民を鼓舞して戦っている今を見ても、どうも日本がウクライナのように戦える気がしません。私は平和ボケしすぎてるんでしょうかね。

やる気に満ち溢れて戦場へやって来たパウル達ですが、初日でその高い士気は粉々にされてしまいます。不衛生で寒い塹壕の環境、厳しい上司、そして頭上からうち込まれる砲弾の恐怖が、あんなに志高く参加した若者からあっさり「早く帰りたい」という言葉を引き出したわけです。退避豪でパニックになる様子とかとても生々しかったですね。そして、学友のルートヴィヒは初日に砲撃で死んでしまいます。ドッグタグを回収していたパウルがその無惨な死体を見つけ涙するのですが、戦争の厳しさと惨たらしさをいきなり味わうんですよね。生死を分けるのはほとんど運なんじゃないかって思うような戦場で、こうなっていたのは自分だったかもしれないのです。昨日まで一緒にはしゃいで笑っていた友人の亡骸をどんな思いで見つめているのかと思うと、本当にしんどい。

徐々に戦場にも慣れてくるパウルですが、戦車に蹂躙される塹壕の中で学友のフランツとはぐれた末に死に別れ、一番仲の良かったアルベルトもパウルの目の前で敵に命乞いをしながら火炎放射器で焼かれ死んでしまいます。戦場だから友人の死を悼む暇さえありません。「仲間に会いたいです!」と叫ぶパウルも生きるのに必死です。また、いくら敵とは言え人の命を奪う行為もパウルの心に大きな傷を残します。”敵”としか認識していなかった相手を自分と同じ”人間”に見てしまった時、急に自分のしたことが恐ろしくなり後悔へと変わる、リアルな心理描写だと思いました。自分も相手も、ただ兵士として目の前の敵を殺して生きようとしているだけですからね。

前線の兵士たちが地獄を見ながら命を落としている裏で、エルツベルガーが連合国と休戦交渉を進めています。犠牲となる命に胸を痛めている彼は今すぐにでも休戦したいのですが、連合国側の元帥から72時間の猶予を与えられ、また、全面降伏とも言える協定条件に不満を見せるドイツ軍将校もおり、上層部がちんたら交渉している間にも前線の兵士たちは次々と死んでいるのです。現場の命を見ているのがエルツベルガーしかいなくて、お偉いさんにとっては兵士はただの駒でしかないことがよくわかる。エルツベルガーみたいな人がいるだけマシなのかもしれません。

ようやく休戦協定が結ばれたと知れ渡る中、生き延びたパウルとカットは戦争が終わる事を喜びます。しかし、足を負傷したチャーデンは将来を悲観して二人の目の前で自殺してしまいます。更に、夜が明けてパウルとカットは農家に食料を盗みに入るのですが、そこの子供にカットが撃たれて死亡してしまいます。もう数時間で戦争が終わると言うのに、死地を潜り抜けたカットが戦場でもないところで死んでしまったことの虚しさったらありません。奥さん待ってたのに。また子供欲しいって言ってたのに(フラグでしかない)。何で盗みになんて行ったんだよぉ!その駐屯地にメシないのかよぉ!と思わずにいられませんでした。戦争の悲惨さや残虐さが伝わる映画はたくさんあるけれど、ここまで虚しい気持ちになったのは他にないかもしれません。

その上パウルは、より一層虚しい事態へと突入していきます。休戦協定は11時から発効となるため、休戦に反対しているフリードリヒ将軍は「11時までフランスに攻め入って勝利を手にして来い」と命令を下したのです。逆らえば銃殺です。仲間を全員失って最早感情さえも失くしたように見えるパウルは、10:45に再び戦場へと突撃していきます。あと15分で終戦なのに、次々と斃れていく兵士達。15分。全員で牛歩作戦でも取ればいいのに、敵の陣地が近づくや走り出して突撃していくんですから、軍隊って何なんだろうって思っちゃう。そんなにあの将軍は絶対なのか。せめてお前が先陣切って突撃してけや!!って全人類が思うはず。そんな命令が本当にあったか知りませんが、あいつにはガチで腸が煮えくり返りました。こういうことって実際にあるんですかね?

パウルは突入した敵側の塹壕でフランス兵と取っ組み合いになるんですが、階段を転げ落ちた先でお互い攻撃の手を止めて、じっと顔を見つめ合うんです。もうすぐ停戦時間。お互い落とさなくていい命を認識しているようで、もう残り時間二人でここでじっとしてようよ~、なんて思ってたら背後の暗がりからやって来た顔も見えないフランス兵にパウルは心臓を一突きにされてしまいました。そして響き渡る「11時だ!撃ち方やめ!」の号令。11時になったら両サイドきっちり停戦できるのが逆に凄い。パウルは心臓から血を流しながら階段を上って、終戦の空の下をほんの少しだけ生きることができましたが、最後はパウルが助けた若い兵士にドッグタグを回収されて終わりという途轍もなく虚しい終わりでした。こんなにも虚しい映画があるでしょうか。戦争の虚しさが嫌と言うほどよく伝わってきます。あと数秒終戦が早ければ、パウルは生きて家族の元へ帰れたかもしれないのに。あの15分で、停戦交渉していた数日で、失われた命がどれほどあっただろうと考えると遣る瀬無いですよね。4年間の戦争で、塹壕戦で膠着した西部戦線はほとんど動かなかったそうです。4年もかけてほぼ動かなかった陣地をたった15分で手に入れて来いとかふざけたこと抜かしたあの将軍、無能も大概にしとけよって感じです。

なくならない戦争

あと数秒終戦が早ければパウルは生きて帰れたのにと思うものの、終戦からわずか20年程で第二次世界大戦が勃発するので、たぶんパウルはまた戦争へ駆り出されることになったんじゃないかな。そこもまた虚しい。しかも、敗戦後の巨額の賠償金で経済が大惨事になるわ、ナチスが台頭して最悪の大虐殺をしでかすわで、戦争の呪縛に色々と苦しむことになりそう。連合国の元帥は敗戦国のことなど知ったことかという感じでしたが、次の戦争の火種の一つになったことを示唆してるのかと思いました。

冒頭出て来たハインリヒという兵士の死亡後に、彼の軍服がリサイクルされてパウルに手渡されるシーンがあります。あれには驚きました。軍服って、遺品として家族の元に届けられるわけじゃないんですね。まさかリサイクルとは。国のために命を懸けて戦おうとしてくれている人に戦死した他人の軍服をリサイクルして渡すのは、全く敬意を感じられません。兵士ひとりひとりに命があり、人権があり、大切に想う家族や友人がいるということが、戦争という国の営みの前では失われてしまうんだなぁと感じました。とても怖いです。

第一次世界大戦を経験し、第二次世界大戦を経てもまだ世界から戦争はなくなりません。戦争の悲劇を伝える創作物も記録物も世に溢れ、『西部戦線異状なし』だって何度か映像化されているのに、なくなりません。それどころか今また世界は第三次世界大戦に突入するのではと懸念されるほど緊張が増しています。戦争は残酷だ、愚かだと歴史に学んでいるはずなのに、どうして繰り返すんでしょうね。こんな情勢ですから自分の国の為政者がおかしな道を進まないように注視して平和への意識を高めておきたいですが、よその独裁的な主導者を外側から止めたり変えたりするのは難しく、日本にその気がなくても他国が戦争を仕掛けてきたらどうしたものかと思ってしまいます。

最後に

みんな歯が黄色くて、そういうメイクなり加工なりをしてるんだろうと思うのですが、この時代は歯が黄色かったんですかね。それとも兵士で歯磨きちゃんとできてないから?カットは蕁麻疹が出てるみたいな肌になってて、それもすごくリアルでした。不衛生な環境だし、泥水啜ってたし、食事だって良いもの食べてなさそうでしたし、戦いは万全の体調や環境で挑むものではないことがよくわかって辛かったです。命を懸けて戦ってるんだからせめて栄養のあるものを満足に食べてて欲しいのに、戦場には本当に一切の甘えがなくて過酷。温かく綺麗な部屋で美味しそうなディナーを食べてるフリードリヒ将軍との対比が凄かったですね。そして、俳優さんたちの瞳がめちゃくちゃ綺麗なブルーとかグリーンで、顔面がドロドロに汚れても瞳だけは透き通った宝石みたいに見えました。

上へ